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構造改革特区への挑戦 2007年〜2008年

「特区」とは、従来の法規制の関係で事業化が不可能な事業を特別に行うことができるようにした地域である。中国の経済特区の改革開放が成功したことをヒントに小泉内閣のときの規制緩和政策に採用されたのである。特区制度には、表1のようにいくつかの種類がある。

表1 日本の特区制度
 特区制度  窓口 長所   短所
 構造改革特区
2003年〜
 内閣府  企業、NPO、個人でも誰でも自由に発案可能  認定までに時間がかかる
政治主導ではない
 先端医療開発特区
(スーパー特区)
 内閣府  研究開発がテーマ
研究者主導でできる
 公募型で競争率が高い
次回公募予定が不明
 都道府県独自の特
区を指定
 都道府県 県独自にできる
政治主導でできる
 特区としての法的な担保が弱い
 総合特区制度
2011年〜
 内閣府  担当省との協議の場がある  自治体からの提案となる
 国家戦略特区
2013年〜
 内閣府 特区諮問会議:特区担当大臣と規制担当大臣と民間で議論し、最後は総理が決定→ 規制官庁の壁を壊しやすい  特区担当大臣の力量が問われる

北海道北見市ほか21地域・団体が大麻特区に挑戦

北海道の産業クラスターオホーツクの麻プロジェクトの呼びかけによって、21地域・団体が大麻特区提案をおこないました。構造改革特区推進室によると今回の総計1,092件の提案・要望のうち21件が産業用大麻関連の提案でした。


第12次提案募関係(平成19年10月15日〜平成20年3月7日)
構造改革特区及び地域再生に関する検討要請の実施について(お知らせ)2007年7月12日
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kouzou2/jyoukyou/2007/07/12_1.html


厚生労働省への提案65件中 19件 約3割(29%)を大麻特区!
経済産業省への提案35件中 15件 約4割(42%)を大麻特区!


下記は、具体的な特区の中身のやり取りです。
原文そのままのものです。わかりやすいようにときどき解説を加えてあります。



2007年11月14日 麻プロジェクトの提案提出  

要望事項:産業用大麻の種子の輸入規制緩和

規制の所管・関係省庁 厚生労働省 経済産業省


●根拠法令等
・輸入割当てを受けるべき貨物の品目、輸入の承認を受けるべき貨物の原産地または船積地域その他貨物の輸入について必要な事項の公表を行なう等の件(昭和41 年4 月30 日通商産業省告示第170 号)
・輸入のけし、大麻種子の取扱について(厚生省通知:昭和40 年9 月15 日薬務−第238 号)



<制度の現状>
輸入される大麻の種子については、熱処理等によって発芽不能の処理を施したものであることを証する書類(地方厚生局麻薬取締部が発行したものに限る。)を税関に提出しなければならない。


<求める措置の具体的内容>
学術上の分類は大麻(カンナビス・サティバ・エル)であっても、テトラヒドロカンナビノール(以下「THC」という。) の含有量が皆無である品種の大麻について、発芽不能処理を行わずその種子を輸入することができるものとする。


<具体的事業の実施内容・提案理由>
国内における産業用大麻の耕作面積は10ha 程度に過ぎず、栽培者等が新規に工業製品の製造を目指すような大規模な栽培を行おうとする際には、種子の入手は輸入に頼らざるを得ない。しかし、種子の輸入にあたって、加熱等による発芽不能処理を施すことが規定されており、栽培許可等を受けた者であっても事業を視野に入れた栽培は事実上不可能であり、THC 成分が皆無である品種に限ってこの規定を緩和することにより、環境保全対策及び農業の振興を図ることができる。


【提案実現後の事業構想】
@木材・プラスチックの代替として大麻の繊維と茎を活用し、建材、断熱材、不織布として欧州諸国で事業化実績があり、国内でも実現は容易であると考える。また、大麻を原料とした生分解性プラスチックが欧州の自動車メーカーの内装品として採用され、廃棄物の減量及び化石燃料の使用抑制に寄与しており、国内の諸問題解決の有効な手段と考えられる。
A生育速度が極めて速いことから温室効果ガスである二酸化炭素の固定化に特化しており、バイオマス燃料への転換などが期待できる。また、硝酸性窒素のクリーニングクロップとして地下水の浄化作用にもっとも貢献できる作物である。更には、離農、減反等に起因して増加する耕作放棄地、休耕地の農地保全を図る上で最適な次世代作物である。農業の振興に寄与するばかりでなく、畑に工場を隣設して幅広く工業製品を製造することによって地域経済の活性化が可能である。

●2007年11月6日 1回目の厚労省の回答  

○各府省庁からの提案に対する回答
提案に対する回答 措置の分類  C :対応不可
措置の内容 : V
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「措置の内容」について
分類 内容
T 法律上の手当を必要とするもの
U 政令上の手当を必要とするもの
V 省令・告示上の手当を必要とするもの  → 今回はこれに該当!
W 訓令又は通達の手当を必要とするもの
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(厚生省の回答)
大麻の幻覚成分であるTHCは、微量の摂取でも精神作用が発現することから、THCの含有量が低い大麻であっても、抽出・濃縮等の方法によれば容易に乱用につながる危険性は十分に認めらる。
よって、大麻取締法は、THCの含有量にかかわらず、すべての大麻を規制対象としているところである。また、大麻種子の段階においては、生育した大麻のTHC含有量について判別することは極めて困難である。よって、THC含有量にかかわらず、すべての大麻種子の輸入について現行の輸入規制を維持する必要がある。なお、国際条約(千九百六十一年の麻薬に関する単一条約)において、THC を含有している大麻については、その量にかかわらず規制対象とされている。このことにかんがみても、すべての大麻種子の輸入について、厳正に対処する必要がある。

2007年11月13日 麻プロジェクトの反論提出 1回目 

○再検討要請及び再検討要請に対する回答


再検討要請(内閣府の意見)
@規制所管省庁としてTHC含有量が皆無である品種の大麻の存在を把握しているか。存在しているとして、このような品種の大麻を種子の段階で在来種と区別することは可能か。A提案主体からEUやカナダにおける事例が紹介されているが、貴省において、これらは把握しているか。仮に、事実関係が異なる場合、どのような現状か説明されたい。B提案主体は、フランス政府がTHCを含有しない大麻種子の証明書を認定しているとしているが、貴省において、これらは把握しているか。仮に事実関係が異なるという場合、どのような事情か説明されたい。C提 (ここで文が終わっている)


<提案主体からの意見>
現在の大麻取締法とその関連制度にはTHC 濃度の規制がない。これは法律解説書でも指摘されている。構造改革特区の趣旨と目的から、法的根拠がなくても(この場合、省令を変えなくても)、特区として先進的な事例をつくって検証することはできないのか。種子証明、輸入手続の体制、栃木県と同じ管理体制をどのように整えればよいか。単一条約では薬物防止体制を組んだ上で、産業目的には適応しないと明記している。EU やカナダで薬物防止と産業利用を区別し、THC 濃度規制ができている。日本でそのような制度構築が実験的にもできない理由はない。もし、できないなら、諸外国と比較して行政能力が著しく劣っていると解してよいか。



2007年12月21日  2回目の厚労省からの回答  

再検討要請に対する回答  (厚労省の回答)
「措置の分類」の見直し  C :対応不可
「措置の内容」の見直し  V
----------------------------------------
「措置の内容」について
分類 内容
T 法律上の手当を必要とするもの
U 政令上の手当を必要とするもの
V 省令・告示上の手当を必要とするもの  → 今回はこれに該当!
W 訓令又は通達の手当を必要とするもの
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@THC含有量が皆無である品種の大麻については承知していない。また、大麻種子については、成育した大麻のTHC含有量が皆無であることについて種子の段階で判別することは極めて困難である。
AEU諸国等においては、麻薬に関する単一条約を批准しつつ、産業用大麻の栽培が行われている国があるが、国際麻薬統制委員会(INCB)の年次報告(1999年)によると、1998 年中に、合法的と称する目的のために栽培・収穫されて100 トン以上もの違法な大麻がヨーロッパ諸国に流通したと推定され懸念を示している。
Bフランス政府がTHCを含有しない大麻種子の証明書を認定しているということについては承知していない。
C麻薬に関する単一条約第39 条において、「この条約のいかなる規定にもかかわらず、締約国は、この条約で定める措置より詳細な又は厳重な統制措置を執ること・・(中略)・・を妨げられないものとする。」と規定されているところである。
これらのことにかんがみて、大麻種子の輸入については、THC含有量にかかわらず、現行の輸入規制を維持し、厳正に対処する必要がある。

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<解説>
内閣府の方とも相談しましたが、海外の事例と栃木県の事例を粘り強く反論してくださいとのことです。海外でできて日本でできないのはおかしい!と指摘しても日本は日本!と相手に開き直られるようです。
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2008年1月7日  麻プロジェクトの反論提出


@産業用大麻の品種は、EU諸国の国内法に優先するEU規則に基づいている。


これらの品種は、主にフランス政府から認可された種子会社が管理しており、種子会社 が証明書を発行することは可能である。添付3。種子の段階で判別しなくても、種子会社の証明書によってTHC含有量を把握し、EU域内で商業栽培されている。よって、同じように種子管理会社の証明書があればTHCの把握は可能である。輸入後の管理体制は、 栃木県と同じ管理体制を整えられば問題ないと思うがいかがでしょうか。


AEU諸国やカナダで実現できている薬物防止と産業利用の区別するには、何がポイントになるか貴省の考え方を教えていただきたい。


<再々検討要請>
右の提案主体からの意見を踏まえ、再度検討し回答されたい。


<提案主体からの再意見>
THC 成分が皆無である品種の存在及びフランス政府がこれを証明することについて「承知していない」とのことであるが、次回においてはこれらの事実関係を踏まえた回答を求める。
これらが事実であることを前提とすれば、THC 成分が皆無の種子の判別は可能であるが、輸入時の公的機関等における抜き取り検査(DNA検査等)の実施や、国の主導による種子管理システムの構築を併せて実施することにより違法品種の輸入、流通は完全に防止できるものと考える。
併せて、大麻の栽培に際し目的や品種などに係る申請を経て、都道府県知事が栽培許可を与えている制度も、大麻種子の流通、違法栽培の防止を担保しているものと考える。


2008年3月7日 厚労省からの回答

<再々検討要請に対する回答>
「措置の分類」の再見直し C
「措置の内容」の再見直し V


大麻事犯が急増しているという近年の薬物情勢の下、国際麻薬統制委員会(INCB)の年次報告(1999年)にもあるように、1998年中に合法と称する目的のために栽培・収穫された100トン以上もの違法な大麻がヨーロッパ諸国に流通したと推定され懸念を示している。このような国際的な状況において、発芽可能な種子の輸入を認めることは、大麻の違法な栽培を助長することになりかねないことから現行の輸入規制を維持し、厳正に対処する必要がある(「国の主導による種子管理システムの構築」することや我が国が外国政府による証明書のある種子の輸入を認めることが必要である理由はなく、これを図ることは考えていない。)。

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特区としてのやり取りは、ここで終わりです。
提案者が厚生労働省と直接やりとりするのではなく、内閣府を通じての提案・反論・回答だったため、まどろっこしいやりとりが続いた。2007年時点の厚労省の公式見解を引き出したのが大きな成果であった。しかし、規制緩和の目的は全く達成することができず、次は北海道独自の産業用大麻栽培特区の認定につなげていくこととなった。。